仁木研の主要な研究テーマ |
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<バクテリアの染色体分配> |
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バクテリアが増殖するためには、細胞分裂の際に複製された染色体DNAが、娘細胞へ正しく分配される必要がある。原核生物のバクテリアは、真核生物と異なり細胞核がないが、細胞の1000倍もの長さになる染色体DNAはコンパクトに密集し、“核様体”を形成している。このような密に凝集した染色体DNAは、どのようにして正確に娘細胞へ分配されるのだろうか?私たちは、この分配の仕組みについて明らかにすることを目指している。 |
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1. バクテリアのセントロメア様領域 |
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長年、バクテリアの染色体分配は、細胞が伸長する際、染色体DNAが膜の伸長に伴って娘細胞に移動するという、いわば受動的な過程と考えられてきた(Jacob, F. et al., 1963のモデル)。しかしながら近年、大腸菌の染色体DNAの特定の領域は、細胞伸長に因らず動的に移動することが明らかになってきた。複製、分配の各ステップが明瞭に区別できる真核生物とは大きく異なり、バクテリアの染色体DNAは、複製の最中に特定の領域が細胞の両極方向に向かって移動し、分配される。その際、複製開始領域oriCと終結領域terの挙動が異なる。複製開始領域は複製されると速やかに細胞の両極へ移動し、そこに留まる。これに対し、終結領域は細胞分裂直前まで細胞中央部留まっている。前者の複製開始領域には、セントロメアがあるのだろうか?私たちの研究室は、複製開始領域は、染色体上のmigS領域(図1)を介して細胞の両極方向へ移動することを明らかにした(図2、Yamaichi, Y. and Niki, H., 2004)。また、バクテリアの染色体は驚くほどダイナミックに構造変化をこのmigSセントロメア領域を起点にして起こしている(Yamaichi, Y. and Niki, H., 2004)。現在、このセントロメア様領域migSとコンプレックスを形成する蛋白質を探索、解析中である。 |
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2. DNAを動かすモーター蛋白質 |
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上記のように複製されたDNAが細胞両極へ向かって積極的に移動するには、モーター蛋白質など何らかの駆動力があるはずである。現在、低コピープラスミドの安定分配に必須なATPase蛋白質が、DNA分配のモーター蛋白質ではないかと注目されている。 私たちは、そのようなタンパク質であるSopAタンパク質について、細胞内の動的な形態の変化を調べ、その機能を明らかにしてきた(Hatano et al., 2007)。SopAタンパク質は大腸菌の性決定因子Fのプラスミドの分配に必須の因子で、ATPase活性を有することからプラスミド分配の駆動力を担うモータータンパク質であると考えられている。私たちはこのSopAタンパク質を蛍光タンパク質で標識し、プラスミドDNAの分配と同時に観察を行い、モータータンパク質としての分子機能について調べた。これまでに、SopAタンパク質は細胞極近くに重合の中心を形成し、そこから繊維状の構造体が細胞全体にらせん状に延びていることを明らかにしてきた(図4)。このSopAタンパク質の重合中心は細胞内を周期移動し、これがプラスミドの運動の方向性と関係している。また重合の中心は、ちょうど大腸菌の核様体の極付近に形成され、常に核様体上に形成されているように見えた。そこで、核様体その物が重合の中心であるか明らかにするため、無核細胞内での重合の有無、繊維状の構造形成を調べたところ、両者ともほぼ有核細胞と同じように観察された。しかも、このSopAタンパク質の重合中心が細胞内を周期移動するという現象も同じく観察された(図5)。大腸菌の細胞形態を決める細胞骨格タンパク質MreBは同じくらせん構造を形成する。MreB欠失変異により、細胞形態は球菌へと変わるが、このような変異体細胞においてもSopAタンパク質によるプラスミド分配機構は正常に機能していた(Hatano and Niki, unpublished)。また、球菌では不規則ながらSopAタンパク質の繊維状の構造体も形成され、重合中心の周期移動も確認された。これらのことから、SopAタンパク質は大腸菌内で核様体や形態形成の細胞骨格とは別に自己集合し、繊維状の構造体を形成する。これがプラスミドの分配移動のためのレールとして機能していると考えられる(図6)。 |
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<分裂酵母を用いた染色体動態の解析> 分裂酵母、Schizosachharomyces japonicusの細胞遺伝学研究を新しく始めました。この酵母を研究しているグループは、世界でもまだ数が少なく、どのような研究に発展していくのか、ほんとうのところはまだわかりません。S. japonicusは広くモデル生物として用いられているS. pombeの近縁種ですが細胞のサイズが2倍程度大きいこと、菌糸形成を行うことなどでS. pombeとその細胞生物的な性質が異なります。また、とりわけ分裂期において凝縮した染色体が繊維状にはっきりと見えるのが他の酵母にはない大きな特徴です。このような違いがあるのですが、やはり、近縁種ということで、ゲノム情報はS.pombeとよく似ています。ですので、これまでS.pombeでわかってきた様々な遺伝的な研究情報を活用できます。私たちは、とりわけ"染色体がよく見える"というこの酵母の特徴を生かし、これまで観察することができなかった染色体と核の新しい現象を発見しようと取り組み始めました。 |
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